AIRS®とは〜検査の開発データと特徴(AICS®)〜

AICS®とは

血漿中のアミノ酸濃度バランスは健康な方と比較してがん患者において、代謝の変化など様々な要因によって変動することが報告されています。
そこで、アミノ酸代謝研究とバイオインフォマティクス技術を組み合わせた「アミノインデックス技術」を、がん領域に応用するために臨床研究が行われ、下図のAICS評価式の開発概要に示すように、胃がん、肺がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんのがん患者の血漿検体と健康な方としての人間ドック受診者の血漿検体を比較し、がんリスクスクリーニングを目的としたAminoIndex® Cancer Screening(AICS®)が開発されました。AICS®は統計専門家の評価のもと、AICS値の導出と検証を行っております。
AICS®はこれまでの腫瘍マーカーとは異なり、複数のがんそれぞれに対する現在がんである可能性を一度に評価することが可能であり、またステージⅡ期(もしくはB期)までのがんも対象にしていることから、リスクスクリーニングマーカーとして有用性が高いと考えられます。

各種がん患者の血漿中アミノ酸濃度バランス



AICS®評価式の開発概要


臨床研究施設は以下のとおりです。
神奈川県立がんセンター、岡山大学病院、大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)、群馬県立がんセンター、千葉県がんセンター、静岡県立静岡がんセンター、横浜市立大学附属市民総合医療センター、横浜市立市民病院、横浜南共済病院、横浜市立大学附属病院、愛知県がんセンター中央病院、慶應義塾大学病院、国立がん研究センター中央病院、東海大学医学部付属八王子病院、三井記念病院総合健診センター、亀田メディカルセンター幕張、神奈川県予防医学協会

岡本直幸:人間ドック26(3):454- (2011)
宮城悦子, 他:人間ドック26(5):749-755(2012)改変
Fukutake N, et al:PLoS One 10(7):e0132223(2015)改変


評価式中に含まれるアミノ酸は、これまでの臨床研究データにおいて、各種がん症例と健康な方で有意差のつくアミノ酸と、有意差がつかなくとも、評価式中に加えることで判別能や頑健性が向上するアミノ酸を選択しています。​
なお、AICS(子宮・卵巣)は、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんを対象として解析を行った結果、3種のがんにおけるアミノ酸濃度変化には共通性が高いことから、AICS(子宮・卵巣)式中には、3種のがんのいずれかに罹患している可能性を評価するためのアミノ酸を選択しています。



評価式中に含まれるアミノ酸

がんによって血漿中のアミノ酸濃度バランスが変動する3つの仮説

がん細胞は生存、増殖していくために、エネルギーや細胞の材料が必要となっていきます。がんになると血漿中のアミノ酸濃度バランスが変動するのは、がん細胞の生存・増殖戦略の1つともいえます。最新の研究では、がんによる血漿中のアミノ酸濃度バランス変動の要因は、(1)がん細胞における代謝変化、(2)遠隔正常臓器での代謝変化、(3)免疫応答の誘導の3つが考えられています。

(1)がん細胞における代謝変化

がん細胞は正常細胞よりも急速に増殖し、新しい細胞の材料(タンパク質、DNAなどの核酸)をつくるために、アミノ酸を多く消費します。特にグルタミンはよく利用されます。細胞外からタンパク質を取り込んで分解し、アミノ酸として活用することもあります。

(2)遠隔正常臓器での代謝変化

HMGB1というタンパク質の一種は、がん細胞から出てきて、血液を経由して筋肉に到達します。筋肉ではHMGB1がエネルギー産生の阻害をするためエネルギー不足となり、代わりに筋肉中のアミノ酸を切り出して(これをオートファジーといいます)エネルギーに変えるようになります。分解されてできたアミノ酸は筋肉でのエネルギーに利用されますが、血液中にもあふれだすため血漿中のアミノ酸濃度バランスは変動します。がん細胞は血液中を流れてきたアミノ酸を取り込んで利用していると考えられています。

(3)免疫応答の誘導

がんに対して動き出した免疫細胞が、トリプトファンなどの特定のアミノ酸を消費するようになることで、血漿中のアミノ酸濃度バランスが変化します。さらにマクロファージなどの免疫細胞が産生するサイトカインなどの生理活性物質によって、アミノ酸代謝酵素の活性が変わるともいわれています。また、がんの種類によって活性化する免疫細胞の構成が異なります。免疫細胞のアミノ酸代謝は種類によって違うため、これががん種ごとに血漿中のアミノ酸濃度バランスの変化が異なることにつながると考えられます。

AICS値の分布とランク分布

AICS®では現在がんである可能性をAICS値として表現しています。各がん種に対するAICS®において、特異度(本サイトにおける以降に示す特異度、感度、陽性的中率は、全て症例対照研究に基づき、がん患者と健康な方がそれぞれ異なる集団から算出されています。)が80%となるAICS値を5.0、特異度が95%となるAICS値を8.0、最小値を0.0、最大値を10.0となるように設定しています。AICS値が大きくなるほど、現在がんである可能性が高くなります。またAICS値に基づくランク評価として、AICS値が5.0未満の場合を「ランクA」、5.0以上8.0未満の場合を「ランクB」、8.0以上の場合を「ランクC」と設定しています。すなわち、健康な方の5%が「ランクC」と評価され、また、健康な方の20%が「ランクB」または「ランクC」と評価されます。
各種がんの罹患率は、下記「ランク判定結果と各種がんの特異度、感度及び陽性的中率」に記載の通りです。例えば胃がん罹患者は、10,000人に約9.9人となります。これまでの臨床研究の結果、10,000人が受診すると、胃がんの場合は「ランクA」群に約2.5人、「ランクB」群に約2.4人、「ランクC」群に約5.0人のがん患者が含まれることが分かっています。従って、「ランクA」群では2.5/8,000=0.03%、「ランクB」群では2.4/1,500=0.16%、「ランクC」群では5.0/500=1.00%のがん患者が含まれることになります。つまり、受診者全体の現在がんである可能性と比較すると、「ランクA」群では約0.3倍、「ランクB」群では約1.6倍、「ランクC」群では約10 倍のがんの可能性があると言えます。また、「ランクB」「ランクC」と判定されても、必ずしも、「がん」であるわけではありません。一方、「ランクA」であっても、100%がんではないとは言い切れません。

AICS値とランク評価

各種AICS®に対して、「ランクC」となる場合、「ランクB」または「ランクC」となる場合の特異度、感度、陽性的中率は以下の通りです。特異度、感度、陽性的中率は、症例対照研究に基づき、がん患者と健康な方がそれぞれ異なる集団から算出されています。

ランク評価結果と各種がんの特異度、感度及び陽性的中率

AICS®の各種がんに対する感度と特徴

AICS®は各種がんに対して高い感度を示しました。AICS(膵臓)では「ランクB」または「ランクC」評価の場合、全症例とステージⅡ期の感度に有意差がみられましたが、ステージⅡ期で64%と高い感度を示しています。その他の各がん種では、ステージⅡ(またはステージB)期までのがん患者に対しても、全症例のがん患者と同様に高い感度を示しています。そのことから、ステージⅡ(またはステージB)期までのがん患者に対してもがんリスクスクリーニングが可能であることが示されました。

AICS®の各種がんに対する感度(ランクC)

AICS®の各種がんに対する感度(ランクBまたはランクC)


また、AICS®の各検査項目は下記のような特徴が示されています

AICS®解説書をダウンロード

AICS®検査結果とその見方